路上の歌声
2009年10月撮影
かつて数年間にわたって、路上ライブを熱心に撮っていました。画像庫を改めて見ると、2007年夏から2011年春にかけてのことです。道行く人が足を止め、歌を聴いてくれるのは帰宅時間帯なので、路上ライブの写真は夕景、夜景が多くなります。
私は現在も「背景を殺さない主義」を掲げていますが、路上ライブの場合は聴き入る人たちの顔がバッチリわかってしまうとイケナイと思って、ボケる機材を使いました。この時期、ポートレートはオリンパスのフォーサーズ機で撮っていましたが、この路上ライブ撮影にはNikon D700というフルサイズ機を使っています。1枚目はISO200、f1.4、1/400secで、真正面で聴いている人の顔をぼかそうとしています。
歌い手は「とっと」という人で、アイドル路線とは一線を画した人でした。歌う内容も恋愛模様についてではなく、日常のなかによくある小さな葛藤を、こどもにもわかる平易な言葉で歌っていました。たとえば……自己内面に猛獣のような存在もあれば臆病な小動物も同時に存在する……というようなことを、三歳児にもわかる言葉で歌っていました。
夕刻、路上ライブを始めると、まず小さい子供たちが足を止めて聴き入ることが多かったです。すっかり日が落ちたあと、幼児を抱っこしたお母さんが聴衆に加わりました。子供を惹きつけるのは「狙ってやっているのではない」と言ってましたが、特異な才能の持ち主だったと言えるでしょう。
路上ライブに対して道路占有許可はおりませんが、無許可であっても全部が取り締まりの対象になるわけでもない、いわば、お目こぼしでやっていることでした。許可してしまうと「なぜ許可したのか」を説明する責任が生じますから、お役所としては避けたいわけです。とはいえ、周囲への害が少ないなら通りかかった警察官は素通りして行きました。つまりは黙認です。
一時期は、ずいぶん熱心に路上ライブを撮っておりましたが、2011年3月を境目にしてスッパリやめてしまいました。東日本大震災が起きて間もないころ、もう何年も路上ライブを追い続けてきたアーティストたちが被災地を訪れたレポートのなかで、何十枚もの写真がありながら、彼らが祈りを捧げたり、頭を下げた写真が一枚も無かったのでした。変わり果てた町で、無遠慮に突っ立っているばかり。
天皇・皇后の御夫妻が被災地を訪れたとき、避難所で床に膝をついて被災者を励まされ、また、瓦礫の山に向けて、深々と御辞儀をなさったことが、強く印象に残っていた時期のことでした。
博愛を歌いながら、そういう態度か。
私は夢から醒めたかのように、路上ライブを撮るのは一切やめました。
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